芸術至上主義とか

芥川龍之介の「地獄変」は芸術至上主義の作品として有名であり非常に含蓄に富んでいる。私たちは自分の能力を認めるならば、逆に他人を傷つけざるを得ないということだ。
それは、例えば成熟した社会に入る場合についていえると思う。市場として小さく尚且つ成長する見込みのあるものならば、それに適性のあることはすなわち立身出世と結びつくが、ある程度成熟した社会に飛び込む場合能力の有無と出世はほとんど関係ない。あるのは、欲やエゴのぶつかり合いと狡猾さである。凡そ良心のある人間には耐えられないことだ。具体的にいえば、昔は大学に入ることは能力のあることの証左であり、そこを出れば社会的な成功が約束されていたが、今では昔ほどの魅力はない。(もちろん、優秀な人間としての魅力はもちろんある。)そして、大学という肩書きではなく、いわゆる成功にはさらに人間の泥臭い部分が必要ということである。
芥川の「わたしは良心を持っていない。わたしの持っているのは神経ばかりである。」という言葉も、深い痛ましさから生まれたのだろう。